求人票づくりは、他社の文面を眺めながら書き写す作業になりがちです。ところが不動産の求人には、歩合(インセンティブ)や固定残業代、宅地建物取引士の資格手当、土日出勤や直行直帰といった、書き方を誤ると入社後のギャップに直結する項目が並びます。しかも労働条件の明示は、職業安定法で義務づけられているもの。本記事では、職種別(賃貸仲介・売買仲介・賃貸管理・事務)の配布プロンプトで原稿を作りつつ、明示が必要な項目を条文で確認しながら、AIに書かせてよい範囲と人が確定する範囲を線引きします。専用ツールの契約は不要、ChatGPT・Claudeに貼るだけです。
不動産会社で採用を担当する方向けです。AIが出すのは求人票の下書きで、給与・労働時間・休日などの数字は、就業規則や賃金規程と突き合わせて人が確定してください。労働条件の明示ルールは 職業安定法 と 同法施行規則、固定残業代の表示は 厚生労働省のリーフレット で確認しています。本記事は一般的な整理であり、個別の判断は社会保険労務士・顧問弁護士や所轄のハローワーク・労働局にご確認ください。
不動産の求人票づくりでAIが得意なのは、募集条件を「読み手が想像できる文章」に起こすところです。一方で、給与や休日の数字、固定残業代の内訳は、事実と一致していることが何より大事な部分。書くのはAI、数字を確定するのは人という分け方にすると、速さと正確さが両立します。追加ツールの契約は不要で、ChatGPT・Claudeにコピペするだけです。
賃貸仲介・売買仲介・賃貸管理・事務の4職種ぶん。ChatGPT・Claude にそのまま貼れます。
厚生労働省の令和6年度 ハローワークにおける求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に係る申出等の件数によると、全国の申出・苦情等は3,297件(令和5年度は3,761件)。内容別でいちばん多いのは「賃金に関すること」929件(20.2%)、次いで就業時間661件(14.4%)、職種・仕事の内容591件(12.9%)でした。要因別では「求人票の内容が実際と異なる」が1,478件で最多です。
同じ資料の産業別内訳では、不動産業・物品賃貸業が87件(令和5年度は101件)。また厚生労働省のリーフレットでも、申出・苦情でいちばん多い内容は「賃金に関すること(固定残業代を含む)」と示されています(厚生労働省職業安定局調べ・平成27年度/民間職業紹介機関の利用者の不満についても民間人材ビジネス実態把握調査・平成28年8月で同様の傾向)。賃金がトップという構図は、10年前から変わっていないということです。
不動産の求人はここが特に難しい分野です。歩合(インセンティブ)、固定残業代、資格手当が組み合わさり、「年収◯◯万円可」の一言に複数の意味が混ざりやすいためです。AIに任せると、この部分こそもっともらしく、都合よく書かれてしまいます。だからこそ、先にルールを押さえておく価値があります。
労働者の募集を行う者は、従事すべき業務の内容および賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとされています(職業安定法5条の3第1項)。明示すべき具体的な事項は、同法5条の3第4項の委任を受けた施行規則4条の2第3項に定められています。
| 明示が必要な事項 | 不動産の求人で抜けやすい点 |
|---|---|
| 従事すべき業務の内容(業務の変更の範囲を含む) | 「営業全般」で終わらせず、来店対応・物件案内・契約手続きの範囲まで |
| 労働契約の期間 | 有期か無期かを明記。有期なら期間も |
| 試みの使用期間(試用期間) | 試用期間中の条件が本採用と違うなら、その内容も |
| 有期契約を更新する場合の基準 | 通算契約期間や更新回数の上限の定めがあればその上限も |
| 就業の場所(変更の範囲を含む) | 店舗異動の可能性、他店舗の応援があるかどうか |
| 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日 | 土日出勤と平日定休、繁忙期の勤務 |
| 賃金の額 | 基本給・固定残業代・歩合の内訳(後述) |
| 社会保険(健康保険・厚生年金・労災・雇用保険)の適用 | — |
| 雇用しようとする者の氏名または名称 | — |
| 就業の場所における受動喫煙を防止するための措置 | 店舗・営業車での取扱い |
※派遣労働者として雇用する場合は、その旨の明示も必要です。
業務の内容と就業の場所については、変更の範囲まで明示することとされています(同項1号・3号)。「入社時はこの店舗・この業務、将来的にはこの範囲まで動く可能性がある」を書く、ということ。他社の古い求人票を写すと、ここが抜けたままになりがちです。
不動産の求人で誤解が生まれやすいのが給与欄です。ここはAIに任せきりにせず、書き方の型を決めてから渡すのが確実です。
厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークのリーフレットでは、固定残業代制を採用する場合、募集要項や求人票に次の①〜③すべてを明示するよう求めています。① 固定残業代を除いた基本給の額 ② 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法 ③ 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨。「みなし残業代込み◯◯万円」だけの表示では足りません。
| やりがちな書き方 | 整理した書き方 |
|---|---|
| 月給30万円(みなし残業代含む) | 基本給◯◯円/◯◯手当(時間外労働の有無にかかわらず◯時間分の時間外手当として△△円を支給)/◯時間を超える時間外労働分の割増賃金は追加で支給 |
| 年収1,000万円可 | 固定給と歩合を分けて記載。平均と最大を混ぜない。「可」と書くなら、その金額に届いた実績の条件(担当件数・在籍年数など)まで |
| インセンティブあり | 支給条件(何に対して・いつ支給か)と、計算の基礎(売上か粗利か)を明示 |
| 資格手当あり | 対象資格(宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士など)と月額を明示。取得見込みの扱いも |
| 未経験歓迎 | 受け入れ体制(研修期間・同行期間・メンター)を併記。歓迎の根拠を書く |
労働者として雇用する以上、出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、労働時間に応じ一定額の賃金を保障しなければならないとされています(労働基準法27条)。求人票に「歩合100%」とだけ書くと、保障給がないかのように読めてしまいます。保障給の有無と金額まで書くのが正確です。
宅地建物取引業者は、事務所等ごとに成年者である専任の宅地建物取引士を置く義務があり(宅地建物取引業法31条の3)、事務所では業務に従事する者の数に対する宅地建物取引士の数の割合が5分の1以上となる数が必要です(宅地建物取引業法施行規則15条の5の3)。有資格者を採りたい理由がここにある以上、対象資格と月額、取得見込みの扱いまで書いたほうが、求職者にも自社の本気度が伝わります。
不動産営業の求人で定番の訴求ですが、労働時間の扱いに直結します。労働時間の全部または一部を事業場外で従事し、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす制度があります(労働基準法38条の2)。自社が採用しているかどうかで書き方が変わるため、始業・終業時刻と、みなし制の有無を確認してから記載してください。
なお、募集に関する情報には虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならないという決まりがあり、罰則も設けられています。次の章でまとめて扱います。
AIに「人柄が伝わる求人票を」と頼むと、かなりの確率で年齢や性別に触れる表現が出てきます。ここは事実の記述に置き換えるのが鉄則です。
| AIが書きがちな表現 | どう直すか |
|---|---|
| 20代・30代の若手が活躍中 | 年齢で応募を狭める表現。「入社1〜3年目の社員が◯名在籍」のように事実の記述へ |
| 体力に自信のある方歓迎 | 「1日平均◯件の内見案内があります」と、業務量の実態で書く |
| 明るい女性スタッフが活躍中 | 性別を示す表現。職種名も「営業マン」ではなく「営業職」に |
| 家庭を持つ方も安心 | 家族構成に踏み込む表現。制度名(時短勤務・◯曜日固定休)で書く |
募集および採用については、年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならないとされ(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律9条。適用される場面と例外の扱いは厚生労働省令で定められています)、性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならないとされています(男女雇用機会均等法5条)。配布プロンプトでもこれらの表現を禁じていますが、最後は人の目で確認してください。
表現の問題は、年齢・性別だけではありません。職業安定法5条の4は、募集に関する情報について虚偽の表示または誤解を生じさせる表示の禁止と、正確かつ最新の内容に保つことを定めています。さらに同法65条9号では、虚偽の広告をし、または虚偽の条件を提示して労働者の募集を行った場合、6月以下の拘禁刑(旧・懲役)または30万円以下の罰金と定められています。
「正確かつ最新の内容に保つ」という観点では、募集終了後や条件変更後に掲載を更新できる運用になっているかが要点です。自社サイトの採用ページは特に残りがちなので、掲載先の一覧を作って定期的に見直してください。
確約と読める表現(必ず稼げる、確実に昇進 など)は、実態と乖離しやすく、誤解を生じさせる表示につながります。実績を書くなら、条件と幅をセットで。
| AIに書かせてよい | 人が確定する |
|---|---|
| 仕事内容を、1日の流れが想像できる文章にする | 給与・労働時間・休日・手当の数字(就業規則・賃金規程と突合) |
| 「大変なところ」を率直な言葉にする | 固定残業代の3点が正しく書けているか |
| 求める人物像を、経験・資格に分けて整理する | 資格手当の対象資格と金額、取得見込みの扱い |
| 明示が必要な項目が入っているかのチェック | 業務・就業場所の「変更の範囲」の実態 |
| 複数媒体向けに文字数を調整する | 掲載後の情報の更新(募集終了・条件変更) |
配布プロンプトでは、情報がない項目を推測で埋めず「【要記入】」として残すよう指示しています。とくに給与まわりは、与えた情報以外を書かせないことが大事。AIが事実でないことを書いてしまう性質は 不動産AIのハルシネーション対策 に整理しています。
賃貸仲介営業・売買仲介営業・賃貸管理・事務の4職種ぶんをまとめています。【自社の情報】を埋めて貼り付けるだけ。最後に、明示が必要な項目のチェック一覧まで出力させる構成です。
# 不動産の求人票づくり AIプロンプト(職種別4種) # ── 賃貸仲介営業/売買仲介営業/賃貸管理/事務・バックオフィス # 使い方:使いたい職種のプロンプトをコピーし、【自社の情報】を埋めて ChatGPT または Claude に貼り付けてください。 # 注意:給与・労働時間・休日の数字は、必ず就業規則や賃金規程と突き合わせてください。 あなたは不動産会社の採用を担当するアシスタントです。 下の【自社の情報】をもとに、賃貸仲介営業の求人票の原稿を作成してください。 情報がない項目は、推測で埋めず「【要記入】」と明示して残してください。 とくに給与・労働時間・休日・手当の数字は、与えられた情報以外を書かないでください。 ■ 出力してほしいもの 1.【仕事内容】200〜300字。1日の流れが想像できるように、来店対応・物件案内・申込〜契約手続きの割合を具体的に。 2.【この仕事の大変なところ】100字程度。繁忙期や土日出勤など、入社後のギャップになりやすい点を正直に。 3.【求める人物像】宅地建物取引士の要否は「必須/歓迎/不問」で明示。 4.【給与欄の記載案】基本給・固定残業代・インセンティブを分けて記載。 5.【労働条件の明示チェック】明示が必要な項目について、原稿に入っているか/不足しているかの一覧。 …(以下、書き方のルール、【自社の情報】の記入欄、売買仲介・賃貸管理・事務の差し替え版、 最後に人が確認することのチェックリストがつづきます)
テキストファイル(.txt)。ChatGPT・Claude どちらでも使えます。
以下は架空の会社を想定して作成したサンプルで、実在の求人や実際のAI出力をそのまま載せたものではありません。整理後の形を、自社の原稿と見比べてみてください。
before| 月給30万円〜(みなし残業代含む)/インセンティブあり/年収1,000万円可
基本給 22万円
営業手当 8万円(時間外労働の有無にかかわらず、40時間分の時間外手当として支給)
※40時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金は追加で支給します
インセンティブ 仲介手数料の粗利に対し◯%(翌々月支給)
資格手当 宅地建物取引士 月2万円(取得見込みは支給対象外)
※在籍3年目・年間◯件担当の社員の実績年収は◯◯万円です(平均値。最大値ではありません)
変わったのは「盛り方」ではなく、内訳が分かるようになったことです。固定残業代の3点が入り、歩合の計算基礎と支給時期がはっきりし、年収例が平均か最大かを区別しています。応募前に分かることが増えるほど、入社後のギャップは小さくなります。
| 採用の工程 | AIの使いどころ |
|---|---|
| 求人票・募集要項の原稿 | 下書きと明示項目のチェック(本記事) |
| 採用サイト・社員インタビューの原稿 | 構成づくりと文章化。事実確認は人 |
| スカウト文・返信テンプレート | 文面のバリエーション出し。条件の数字は求人票と一致させる |
| 面接の質問リスト | 職種別の質問案づくり |
| 応募書類の読み込み・選考 | 慎重に。目的の範囲と社内ルールを先に確認(下の注意を参照) |
| 入社後の教育・研修 | AIが定着する社内研修・人材育成 を参照 |
求職者等の個人情報は、業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして収集し、その範囲内で保管・使用することとされています(職業安定法5条の5)。応募書類をAIに読み込ませて選考の下書きをさせるような使い方は、目的の範囲や社内ルールを確認してからにしてください。
A. 下書きとして使い、給与・労働時間・休日・手当の数字は就業規則や賃金規程と突き合わせてから掲載してください。労働条件の明示は職業安定法5条の3の義務であり、虚偽や誤解を生じさせる表示は同法5条の4で禁止されています。責任は掲載する事業者にあります。
A. 厚生労働省のリーフレットでは、固定残業代制を採用する場合、①固定残業代を除いた基本給の額 ②固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法 ③固定残業時間を超える分の割増賃金を追加で支払う旨のすべてを明示するよう求めています。総額だけの表示では足りません。
A. 実績に基づく金額であれば記載できますが、固定給と歩合を分けて示し、平均値と最大値を混ぜないことが大切です。「年収◯◯万円可」と書くなら、その水準に到達した条件(担当件数・在籍年数など)まで添えると、入社後のギャップを避けられます。
A. 大きく3つです。①事実と異なる表示・誤解を生じさせる表示(職業安定法5条の4)、②年齢や性別で応募を狭める表現(「20代活躍中」「明るい女性スタッフ」など)、③確約と読める表現(必ず稼げる、確実に昇進 など)。とくに賃金は、固定残業代の3点明示と、年収例の平均・最大の区別を守ってください。
A. 求職者等の個人情報は、業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして収集・保管・使用することとされています(職業安定法5条の5)。外部サービスへの入力は慎重に判断し、社内でルールを決めてから行ってください。判断の枠組みは 不動産会社のAI利用ルールの作り方 が参考になります。
まずは1職種ぶん、いま出している求人票をプロンプトに通してみてください。明示チェックで抜けが出れば、他の職種の原稿にも同じ抜けがあるはずです。
本記事は2026年9月30日時点でe-Gov法令検索に掲載されている条文、および厚生労働省の公表資料に基づく一般的な整理です。法令・指針は改正されることがあります。実務での判断にあたっては、最新の情報をご確認のうえ、社会保険労務士・顧問弁護士や所轄のハローワーク・労働局にご相談ください。
採用・育成にもAIを取り入れたい方へ 自社のAI活用レベルと、次に手をつける業務を5分で整理できます。
藤田 遼(株式会社WIG 代表/宅地建物取引士)
不動産業界での実務経験をもとに、現場でそのまま使える生成AIの活用法を研究・発信。「今日からコピペで使える」を合言葉に、不動産特化のAIノウハウを届けています。