不動産AIのハルシネーションは、AIの利用をやめなくても管理できます。誤りが出やすい場面が業務ごとに決まっており、確認すべき箇所も絞り込めるためです。この記事では、不動産業務で起きやすい7つの場面と、誤りを減らす指示文、出力のどこを見れば良いかを解説します。読み終えるころには、AIを止めずに事故を防ぐ具体的な手順が分かります。
AIが間違った内容を出すと聞いて、業務で使うのが怖い——。実際に誤りを見つけた経験があり、どこまで信じてよいか判断できない方は多いはずです。この記事の答えは「AIを使うのをやめる」ではありません。誤りが出る前提のまま、業務で安全に使い続けるための具体的な手順をお渡しします。誤りは業務ごとに出やすい場面が決まっており、確認すべき箇所も絞り込めるからです。
・不動産業務で起きるハルシネーションの3つの型(作り話・取り違え・時点ズレ)
・誤りが起きやすい7つの場面と、それぞれ「確認する先」
・誤りを減らす指示文と、出力を4カ所だけ確認する手順、社内ルールへの落とし方
ハルシネーションとは、AIが事実に基づかない内容をもっともらしく出力する現象です。物件紹介文に実在しない設備が入る、といった形で現れます。まず、実際に起こりうる3つのケースを見てみましょう。

3つに共通するのは、文章として自然な点です。誤字も不自然な言い回しもなく、自信のある書き方で並んでいます。総務省の令和6年版情報通信白書も、生成AIが事実に基づかない誤った情報をもっともらしく生成する現象をハルシネーションと定義し、技術的な対策では完全に抑制できないとして、利用者側で出力の正しさを確認するよう求めています。AIの出力は下書きであり、そのまま使える完成品ではありません。
1-2. 業務で問題になる3つの型|作り話・取り違え・時点ズレ 先ほどの3ケースは、それぞれ性質の異なる誤りです。不動産業務で起きるハルシネーションは、次の3つの型に整理できます。
| 型|起きること | 現場での例 |
|---|---|
| 作り話型|存在しない事実を新しく作り出す | 渡していない設備や周辺施設を物件紹介文に書き足す |
| 取り違え型|実在する情報を別のものと混同する | 別の号室の面積を当てはめる。似た制度の要件を入れ替える |
| 時点ズレ型|過去の内容を現在の内容として出す | 改正前の要件や、募集の終わった補助制度をそのまま説明する |
作り話型は「そんな設備はない」と気づける場合が多い一方、取り違え型は数字も制度名も実在するため違和感が生まれません。同じ物件資料のなかで数値が入れ替わっている場合、原本と突き合わせるまで発見できないと考えたほうが安全です。
1-3. 精度が上がっても確認工程をなくせない理由 AIの精度は年々上がっていますが、確認工程を外せないのは、ハルシネーションがモデルの仕組みそのものに根ざしているためです。OpenAIが2025年9月に公開した論文「Why Language Models Hallucinate」では、不確実なときに推測して答えるほうが評価されやすい訓練・評価の設計が誤りを助長すると指摘され、世の中に出回る量が少なく規則性のない事実ほど誤りやすいとも述べられています。特定の物件、地域ごとの条例、個別の管理規約は、いずれも出回る量が少ない情報です。AIは一般論には強く、目の前の1件には弱いと理解しておきましょう。
誤りは業務全体に均等に起きるのではなく、特定の場面に偏って発生します。注意すべき7つの場面と、それぞれ「出やすい誤りの中身」「確認する先」をまとめました。自社で該当する業務から確認してください。
| 場面|出やすい誤りの中身 | 確認する先 |
|---|---|
| 物件紹介文・広告文の作成|渡していない設備、周辺施設、駅からの分数を書き足す | 物件資料・図面の原本 |
| 法令・条例の説明|実在しない条文番号、自治体ごとの違いを一般論で説明する | e-Gov法令検索・自治体の公式サイト |
| 税金・費用の説明|控除の要件や適用期限の言い回しがずれる | 国税庁タックスアンサー |
| 相場・統計の引用|出典のない平均価格、利回り、成約件数を示す | 公的統計・自社の実績データ |
| 図面やPDFの読み取り|別の区画や号室の数値を当てはめる | 元ファイルの該当ページ |
| 出典やURLの提示|実在するサイトの、存在しないページのURLを示す | 実際にリンクを開いて確認 |
| 社内情報・自社サービスの説明|自社の手数料や対応範囲を一般的な内容で補う | 自社の規定・料金表 |
7つのうち、多くの会社で頻度が高いのは物件紹介文の作成です。物件資料を渡さずに「この物件の魅力を書いて」と頼むと、AIは足りない情報を一般的な内容で補い、実在しない宅配ボックスや確認していない周辺施設が文章に入り込みます。
誤りが広告表示や説明義務に直結し、責任の所在が会社側になるためです。たとえば駅からの徒歩分数は、道路距離80メートルにつき1分・端数切り上げと不動産の表示に関する公正競争規約(施行規則)で定められています(600mなら7.5分→表示は8分)。AIに距離だけ伝えると切り上げが抜けたり直線距離で計算されたりします。税制も同様で、国税庁のマイホームを売ったときの特例は「住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合」ですが、AIが「3年以内」と要約すると意味が変わります。数字が合っていても、条件の言い回しがずれる点に注意してください。
2-3. 表にない業務の危険度を見分ける3つの目安 7つの表に載っていない業務でも、危険度は自分で判断できます。次の3点のうち2つ以上に当てはまる作業は、AIに任せる前に資料を渡す前提で進めてください。
一般的な文章表現の相談や言い回しの整理は、いずれにも当てはまらないため気軽に任せて構いません。危険度を見分けられるようになると、確認に使う時間の配分も決めやすくなります。
ハルシネーションは、指示の出し方で発生率を下げられます。AIが情報を持っていない状態で答えさせないことが基本です。
3-1. 資料を渡し、資料の外を書かせない 最も効果が大きいのは、判断材料を先に渡すことです。物件資料、図面、社内の料金表を添付したうえで、その範囲から出ないよう明示します。
添付した物件資料だけを使って、賃貸物件の紹介文を400文字で作成してください。資料に書かれていない設備・周辺施設・交通の所要時間は、推測で補わず一切書かないでください。資料から判断できない項目は、文章に含めず「【要確認】〇〇」として最後にまとめてください。
「書かないでください」だけでなく、書けない場合の逃げ道を用意する(逃げ道がないとAIは無理に文章を成立させようとする)/資料は要約せずにそのまま渡す(人が要約する過程で落ちた情報は、AIが推測で埋める対象になる)。
3-2. 分からないことは【要確認】と書かせる 曖昧な指示ほど、AIは文脈を埋めようとして推測を混ぜます。「分からない」と言える余地を作りましょう。
Before → After Before:この物件のおすすめポイントを教えて
After:添付資料の記載事項のみを根拠に、おすすめポイントを3つ挙げてください。各ポイントの末尾に、根拠とした資料内の項目名を( )で示してください。根拠が資料内にない場合は、そのポイントを削除してください。
根拠の表示を求めると、どの記載を見て書いたのかが分かり、原本との突き合わせが1カ所で済みます。ただし表示された根拠自体が正しいかは人が見る必要があります。指示の工夫は発生率を下げる手段であり、確認工程の代わりにはなりません。
3-3. 出典を求める指示が逆効果になる場合 「出典のURLを付けてください」という指示は、状況によって逆効果になります。Web検索の機能を使っていない状態でURLを求めると、AIは実在するサイトの形式に沿った存在しないURLを作り出す場合があります(ドメインは本物で、その先のページだけがない状態)。対処は2つ。①Web検索の機能を明示的に有効にしたうえで出典を求める、②参照してほしい公式ページを自分で開いて内容を貼り付けて渡す。法令や税制など正確さが求められる情報では、後者のほうが確実です。
全文を読み直す方法は続きません。作業は2段階に分けます。まず、誤りが集中する4カ所を拾い読みします。次に、拾った箇所だけを原本と突き合わせます。
4-1. まず拾い読みする4カ所|数字・固有名詞・法令名・断定表現 文章の良し悪しは見ず、この4種類だけを拾い読みします。

4つに共通するのは、答えが1つに定まる点です。逆に、表現の工夫や文章の流れは間違いようがないため、確認の対象から外せます。断定表現だけは性格が異なり、根拠があるかどうかを確かめる合図として扱ってください。
4-2. 拾った箇所を原本と照合する3ステップ 拾い読みが終わったら、原本との突き合わせに進みます。
画面上なら色を付ける。作業量は文章の長さではなく、線を引いた箇所の数で決まります。
数字と固有名詞が少ない文章であれば、突き合わせは1分もかかりません。
このステップだけは省略しないでください。要約された内容は正しく見えても、条件や期限の表現が変わっている場合があります。宅地建物取引業法や景品表示法に関わる記載は、宅地建物取引士など有資格者が照合する運用にしておくと安全です。
4-3. 照合を別のAIに任せるときの限界 「別のAIに検証させれば良いのでは」という発想は自然で、誤りの候補を洗い出す用途では役立ちます。ただし任せきりにはできません。理由は2つ。①検証する側のAIも同じくハルシネーションを起こす②両者が同じ傾向の誤りを持つ場合、誤りを誤りとして検出できない。現実的には、AIに拾い読みの部分だけを任せ、原本との照合は人が担う分担が向いています。
以下の文章について、事実確認が必要な箇所を洗い出してください。数字・固有名詞・法令名・断定表現の4種類に分類し、それぞれ何と照合すべきかを示してください。正誤の判定はせず、確認先の提示のみ行ってください。
【対象の文章】
(ここに確認したい文章を貼り付ける)
【出力形式】
1. 数字(記載内容/照合先)
2. 固有名詞(記載内容/照合先)
3. 法令名・条文(記載内容/照合先)
4. 断定表現(記載内容/根拠として必要な資料)
正誤の判定をさせない(判定を求めると、根拠の弱い「問題ありません」という回答が返りやすい)/照合先まで書かせる(確認作業を担当者に引き継ぐ際、そのまま指示書として使える)。洗い出しを任せた分の時間を、原本との照合に回すのが効率的です。

5-1. 自社のAIがどこで間違えるかを試す3つの質問 一般論の対策より、手元のAIで実際に試すほうが説得力があります。次の3つを社内で試してみてください(所要5分程度)。
どの質問で誤りが出たかを社内で共有・記録しておきましょう。抽象的な注意喚起より、自社の業務で起きた1件のほうが行動につながります。AIの挙動はモデルの更新で変わるため、半年に1回ほど試し直すことをおすすめします(※2026年8月時点の情報です)。
5-2. 業務ごとに確認する人を決める 「全員が気をつける」というルールは、実質的に誰も確認しない状態を生みます。業務ごとに「AIを使う工程/確認する人/確認する箇所」を書き出してください。広告表現や重要事項に関わる文章は宅地建物取引士など有資格者が確認する運用にし、社内向けの議事録やたたき台であれば作成者本人の確認で足ります。誤りが外に出る文章と、社内で完結する文章を分けて考えると運用が続きます。
5-3. 誤情報が外に出てしまったときの対応 対応の速さが信頼の回復を左右します。進め方は3段階。①誤った内容と正しい内容を並べて記録する②顧客へ速やかに訂正を連絡し、影響の範囲を確認する③なぜ確認工程をすり抜けたのかを検証する。検証では担当者の不注意として片づけないことが大切です。原因の多くは「資料を渡さず作業させた」「確認する人が決まっていなかった」という仕組みの側にあります。報告しやすい空気を保つことが、結果的に事故を減らします。
A. 起きにくくはなるものの、なくなりはしません。検索結果そのものが古い場合や、検索した内容を要約する過程で条件が変わる場合があるためです。検索機能は「AIに手元の材料を持たせる手段」と捉え、表示された出典を実際に開いて確かめる工程は引き続き必要です。
A. 顧客の氏名や連絡先はそのまま入力せず「お客さまA」などの仮名に置き換えてください。物件情報も住所や部屋番号を伏せて渡せる場合が多くあります。あわせて、利用するAIツールの利用規約と、入力内容が学習に使われるかの設定を確認しましょう。法人向けプランでは学習に使わない設定が用意されている場合があります。
A. 業務によって扱いを分けるほうが現実的です。誤りが外に出ない業務(社内資料のたたき台、長文の要約)から始めると、リスクを抑えながら経験を積めます。禁止しても担当者が個人アカウントで使い始めるほうが管理は難しくなります。使う範囲を決めて認めるほうが、結果的に統制しやすいといえます。
誤りが出ることを前提にしても、AIの価値は下がりません。まずは手元のAIに3つのテスト質問を投げ、自社の弱点を1つ見つけるところから始めてみてください。
5章の社内ルールをひな形つきで具体化。宅建業法・景表法・個人情報の扱いも。
「AIに任せない領域」の代表例。重説の点検にAIを使う手順とセットで。
確認体制(軸C)を含め、自社のAI活用レベルを12問で数値化。
「AIをやめずに安全に使う」体制づくりを支援します 株式会社WIG/不動産AI総合研究所は、確認箇所の絞り込み・指示文の整備・確認責任者の設定まで、誤情報を出さないAI運用づくりを支援しています。まずは無料のAI成熟度診断、または個別相談からお気軽にどうぞ。
藤田 遼(株式会社WIG 代表/宅地建物取引士)
不動産業界での実務経験をもとに、現場でそのまま使える生成AIの活用法を研究・発信。「今日からコピペで使える」を合言葉に、不動産特化のAIノウハウを届けています。