不動産会社のAI導入で現実的な選択肢になるのは、デジタル化・AI導入補助金の通常枠です。旧IT導入補助金が2026年度に名称を変え、AIを含むITツールの導入費用が支援対象になりました。この記事では、対象になるツールの条件、補助率と補助額、申請の流れを整理します。自社が使えるかどうかを、短時間で判断できるようになります。
AIツールを入れたいが月額費用の負担が読めない。補助金があると聞いたが、制度名が2026年度に変わり情報が錯綜している——。この記事は、中小の不動産会社が「うちが使える補助金はどれか」を迷わず1つに絞り、「導入したいAIツールが対象になるか」を自分で判定できる状態を目指します。結論から言えば、軸になるのはデジタル化・AI導入補助金の通常枠です。
・不動産会社のAI導入で軸になる補助金(デジタル化・AI導入補助金の通常枠)と、その理由
・対象になるAIツールと、対象にならないAIツールの境界線(生成AIの月額利用料は対象か)
・自社が申請できるかの事前チェックと、申請から入金までの流れ・逆算スケジュール
補助金は制度内容・金額・締切が変わりやすいYMYLテーマです。本記事は中小企業庁・事務局サイトの一次情報に限定し、確認できない数値は書かない方針でまとめています。それでも※2026年8月時点の内容のため、申請前に必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。
不動産会社がAIツールの導入費用に補助金を充てるなら、まず検討したいのがデジタル化・AI導入補助金の通常枠です。中小企業・小規模事業者を対象とした制度で、不動産業も申請できます。

1-1. 2026年度に名称が変わり、AIを含むITツールが対象になった デジタル化・AI導入補助金は、長く「IT導入補助金」と呼ばれてきた制度の後継です。中小企業庁は、令和7年度補正予算事業から名称を変更したと公表しました。制度の目的は中小企業・小規模事業者の労働生産性の向上にあり、デジタル化やDXに向けたAIを含むITツールの導入を支援します。物件情報の入力補助や問い合わせ対応の自動化といった用途も、要件を満たせば補助を受けられる可能性があります。旧名称のまま解説している情報も残っているため、情報を集める際は「デジタル化・AI導入補助金2026」の表記があるかを確認しましょう。
1-2. 通常枠の補助率・補助額・対象経費 補助率は原則1/2以内で、一定の賃金に関する要件を満たす場合は2/3以内が適用されます。補助額は、導入するソフトウェアが持つ業務プロセスの数によって区分が分かれます。
| 区分 | 補助額 |
|---|---|
| 1プロセス以上 | 5万円以上150万円未満 |
| 4プロセス以上 | 150万円以上450万円以下 |
対象経費の合計が100万円で補助率1/2なら、補助額は50万円です。ソフトウェア購入費に加え、クラウド利用料は最大2年分まで対象経費に算入できます。実際の補助額は区分の上限・下限(1プロセス5万〜150万円未満/4プロセス150万〜450万円以下)の範囲内で確定します。※金額はあくまで計算上の例で、採択・交付額を保証するものではありません。
ソフトウェアの申請は必須で、オプションと役務だけでは申請できません。月額課金のクラウドサービスも最大2年分が対象経費に含まれる点は押さえておきたいところです。おおよその補助額は、導入するソフトウェアのプロセス数と上表の区分から見積もれます(※2026年8月時点。最新の条件はデジタル化・AI導入補助金2026 通常枠でご確認ください)。
1-3. ほかの補助金ではなく通常枠を軸にする理由 省力化投資補助金やものづくり補助金は、設備投資やオーダーメイドのシステム構築を想定した制度です。補助額の規模は大きいものの、既製のクラウドサービスを契約するだけの導入とは前提が異なります。通常枠はクラウド利用料が対象経費に含まれており、月額課金型のAIツールを入れたい会社の実態に近いといえます。自社専用の業務システムを構築するような大型投資を計画している場合は別制度を検討する余地もあり、その場合は各制度の公式サイトで対象要件と補助下限額を先に確認してください。
補助対象になるAIツールには、明確な条件が2つあります。話題の生成AIサービスを契約すれば自動で対象になる、という制度ではありません。ツール選定に入る前に、この境界線を理解しておきましょう。

2-1. 事務局に登録されたITツールに限られる 補助対象になるのは、IT導入支援事業者が事務局に登録したITツールだけです。申請は事業者単独では行えず、IT導入支援事業者との共同申請が前提になります。したがって、生成AIサービスを自社で個人契約している場合、その月額利用料はそのままでは対象になりません。同じような機能でも、登録済みのITツールとして提供されているかどうかで扱いが変わります。導入を検討しているツールが登録されているかは、公式サイトのITツール検索で確認できます。
2-2. 業務プロセスを1つ以上持つソフトウェアであること 通常枠では、申請するソフトウェアが業務プロセスを1種類以上持つことが求められます。業種・業務が限定されない「汎用プロセス」だけの申請は認められていません。汎用の分析ツールや自動化ツールを単体で申請しても、要件を満たさない扱いになります。業務プロセスの区分は「顧客対応・販売支援」「決済・債権債務・資金回収管理」「供給・在庫・物流」「会計・財務・経営」「総務・人事・給与・教育訓練・法務・情シス・統合業務」「その他業種固有のプロセス」など。不動産業では顧客対応・販売支援か、業種固有のプロセスに該当するツールが中心になります。
2-3. 不動産業務で候補になりやすいツールの領域 2つの条件を踏まえると、不動産業務では次のような領域のツールが候補になります(実際の対象可否はITツール検索での確認が必要です)。
自社の課題がどの領域にあるかを先に決めてから、ツールを探す順序が有効です。補助金の対象になるツールから逆算して選ぶと、使われないシステムが社内に残る結果になりかねません。
制度の対象を理解したら、次は自社が要件を満たすかどうかの確認です。要件は「事業者としての要件」と「手続き上の要件」の2種類に分かれます。ここでつまずくと締切に間に合わないため、早めに手を付けましょう。

3-1. 事業者側の要件を確認する まず、事業者としての基本的な要件を確認します。
事業計画で求められる具体的な数値は、申請枠と過去の受給歴によって変わります。詳細は公募要領で確認したうえで、達成できる範囲の目標を設定してください。
交付申請には、GビズIDプライムの取得と、情報処理推進機構(IPA)が実施する「SECURITY ACTION」の宣言が必要です。どちらも申請直前では間に合わない可能性があります。GビズIDプライムは発行までに約2週間かかるとされ、導入を検討し始めた段階で着手するのが安全です。SECURITY ACTIONの宣言は自己宣言の形式で(★一つ星以上が要件、宣言自体は数日程度)、社内の情報セキュリティ対策を整理する機会にもなります。この2つを先に終わらせておくと、ツール選定に時間を使えます。
3-3. チェック結果別の次の一手 ①すべて満たす場合=IT導入支援事業者への相談に進み、ツール選定と申請準備を同時に始める。②手続き要件だけ未着手の場合=GビズIDプライムの取得を最優先で進め、並行して候補ツールを絞る。③事業計画の目標設定に不安がある場合=支援事業者や認定経営革新等支援機関に相談し、実態に合う数値を詰める。いずれも、締切から逆算して動くことが前提になります。
申請は一定の順序で進みます。順序を守らないと、採択されても補助を受けられません。全体像を把握したうえで、自社のスケジュールに落とし込みましょう。

①公募要領を読み、申請枠を決める②GビズIDプライムを取得し、SECURITY ACTIONを宣言する③IT導入支援事業者とITツールを選定する④支援事業者と共同で交付申請を作成し、提出する⑤交付決定後に導入・支払いを行い、実績報告を提出する。
締切は年に複数回設定されています。公式サイトで公表されている通常枠の締切日は2026年9月29日(火)17時、交付決定日は2026年11月9日(月)の予定です。事業実施期間は交付決定から2027年4月30日(金)までとされています。以降の締切は事業スケジュールでご確認ください。
補助事業を開始できるのは、交付決定の通知を受けた後です。交付決定より前に契約・発注・支払いを済ませてしまうと、その費用は補助対象外になります。「良いツールが見つかったので先に導入し、後から申請する」という進め方は成り立ちません。社内の合意が取れても、交付決定までは契約書に押印しないでください(無料トライアルの利用は契約に当たらない場合もあるため、判断に迷うときは支援事業者に確認を)。導入を急ぐ事情がある場合は、補助金を使わずに自費で導入する判断もあり得ます。
4-3. 後払いを前提に資金繰りを組む 補助金は後払いです。導入費用はいったん自社で全額を支払い、実績報告を経てから補助金が入金されます。交付決定から入金までには数か月かかることを前提に、①導入費用の全額を一時的に立て替える資金を確保する②入金時期は実績報告の提出後になるため期をまたぐ可能性を織り込む③補助対象外の経費(対象外オプション、交付決定前の支出など)を切り分けて見積もる、の3点を押さえておきましょう。
補助金の申請では、自社の課題と導入効果を言語化する作業に時間がかかります。この下準備こそ、AIが力を発揮する場面です。コピペで使える指示文を2つ紹介します。出力はたたき台として扱い、最終的な内容は必ず自社で判断してください。
5-1. 導入対象の業務を洗い出す指示文 どの業務にAIを入れるかが決まらないうちは、ツール選定も事業計画も進みません。まずは改善余地の大きい業務を洗い出します。
あなたは不動産会社の業務改善に詳しいコンサルタントです。以下の会社情報をもとに、AIツールの導入で改善余地が大きい業務を3つ挙げてください。それぞれについて「現在の手順」「1週間あたりの想定作業時間」「AI導入後に想定される変化」を表形式で整理してください。数値は仮置きとし、根拠が不明なものは【要確認】と記載してください。
【会社情報】
事業内容:〇〇(賃貸仲介・売買仲介・管理など)/従業員数:〇名/店舗数:〇店舗/主な取扱エリア:〇〇/現在使っているシステム:〇〇
「時間がかかっている業務」を先に列挙して渡す(日報や残業の実感を3つほど添えるだけで、出力が自社の実態に寄る)/穴埋めテンプレとして保存する(会社情報の部分だけ差し替えれば、店舗別・部署別の洗い出しにも使い回せる)。洗い出した業務は、2-3の領域と照らし合わせてツール選定につなげましょう。
5-2. 生産性向上の目標を言語化する指示文 事業計画では、導入によってどう生産性が上がるかを説明する必要があります。数字と言葉をつなぐ作業をAIに手伝ってもらいます。
あなたは中小企業の補助金申請を支援する経験が豊富な専門家です。以下の情報をもとに、ITツール導入による労働生産性の向上について、申請書に記載する説明文のたたき台を作成してください。断定的な表現は避け、根拠が示せない数値は使わないでください。数値の根拠が不足している箇所は【要確認】と明記してください。
【前提情報】
導入予定のツール:〇〇/解決したい業務課題:〇〇/現在の作業時間:週〇時間/導入後に見込む作業時間:週〇時間/その時間で取り組みたい業務:〇〇
【出力してほしい構成】
1. 現状の課題(3行以内)
2. ツール導入によって変わる業務の流れ
3. 生産性向上の考え方と、その根拠になる数値
4. 数値の根拠として社内で確認すべき資料の一覧
「削減した時間で何をするか」まで書かせる(時間短縮だけの説明より、売上や顧客対応の質につながる筋道があるほうが計画として自然)/出力をそのまま提出しない(申請書は自社の実態に沿う必要があり、数値の裏付けを社内資料で確認し、IT導入支援事業者と内容をすり合わせる)。AIに任せられるのは整理と言語化まで。実態の確認と最終判断は必ず人の手で行いましょう。
A. 中小企業・小規模事業者などが対象の制度であり、要件を満たす個人事業主も申請の対象になり得ます。ただし業種ごとに資本金や従業員数の基準が定められているため、公募要領で自社の該当区分を確認してください。判断に迷う場合は、事務局のコールセンターに問い合わせる方法もあります。
A. 締切は年に複数回設定されているため、次の締切回に改めて申請する形が一般的です。ただし予算の状況によって募集が早期に終了する可能性もあります。締切スケジュールは公式サイトで随時更新されるため、不採択の連絡を受けたら早めに次回分の準備に取りかかりましょう。
A. 補助金の会計処理や税務上の取り扱いは、事業者の状況によって異なります。処理を誤ると修正申告が必要になる場合もあるため、顧問税理士に事前に相談してください。申請前の段階で相談しておくと、資金計画も立てやすくなります。
制度は複雑に見えても、確認すべき点は多くありません。まずは自社が導入したいツールが登録されているかを、公式のITツール検索で調べるところから始めてみてください。
補助金の制度内容・金額・締切、およびAIの機能・料金は変更されることが多いため、申請・公開前に必ず公式サイト(中小企業庁/デジタル化・AI導入補助金2026事務局)で最新情報をご確認ください。補助金の会計・税務の取り扱いは顧問税理士へ、申請可否の詳細は事務局・IT導入支援事業者へご相談ください。本記事はAI活用と制度の実務的な解説を目的とし、法的・税務的アドバイスを提供するものではありません。
補助金で導入した後に。使われるツールにする定着の進め方。
補助金の前に。入力してよい情報の線引きとA4用紙1枚の利用ルール。
対象ツール選びの前提。専用/内蔵/汎用の3分類と業務別早見表。
ツール導入を「業務の流れの変更」として位置づける全体像。
補助金ありきにせず、まず「効く1業務」から一緒に決めませんか 株式会社WIG/不動産AI総合研究所は、業務の棚卸し・対象ツールの見極め・申請の下準備(事業計画の言語化)まで、不動産会社のAI導入を支援しています。まずは無料のAI成熟度診断、または個別相談からお気軽にどうぞ。
藤田 遼(株式会社WIG 代表/宅地建物取引士)
不動産業界での実務経験をもとに、現場でそのまま使える生成AIの活用法を研究・発信。「今日からコピペで使える」を合言葉に、不動産特化のAIノウハウを届けています。