不動産DXとは、ツールを入れることではなく、デジタル技術で業務の流れそのものを変える取り組みです。この記事では、IT化との違いを見分ける判定方法、調査データで見る業界の現状、業務別の早見表、中小不動産会社の事例を解説します。自社がIT化どまりかどうかと、次の一手が分かります。
「DX」という言葉は知っているけれど、自社の取り組みがDXなのか、ただのIT化なのか説明できない——。この記事は、そんな中小の不動産会社の方に向けて書いています。結論から言えば、不動産DXは「何のツールを入れるか」ではなく「どの業務の流れを変えるか」の話です。業務の順番・担当・記録の残り方のどれかが変われば、それはDXに向かう一歩になります。

この記事で分かること
・不動産DXの定義と、IT化・不動産テックとの違い(3つの変化で判定する方法)
・調査データで見る、不動産業界のIT化・DXの現状と、取り組まない理由
・業務別の「IT化どまり/DXになる」早見表と、中小不動産会社の事例4つ
・予算をかけない進め方3ステップと、今は着手を見送るべき場面
不動産DXとは、デジタル技術を使って不動産業務の進め方やビジネスの形そのものを変える取り組みです。紙の書類をPDFに置き換える作業だけを指す言葉ではありません。
DXは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略語です。経済産業省はデジタルガバナンス・コードで、DXを次のように位置づけています。データとデジタル技術で製品・サービス・ビジネスモデルを変え、業務や組織、企業文化まで変えて競争上の優位性を確立する取り組みです(趣旨)。
これを不動産業に当てはめると、物件情報の管理から集客、契約、賃貸管理までの流れをデジタル前提で組み直し、お客さまへの提供価値まで変えることが不動産DXにあたります。ツールの導入は目的ではなく、手段の1つにすぎません。
IT化との違いは、業務の流れが変わったかどうかにあります。IT化は、やり方を変えないまま手段だけを置き換える取り組みです。自社の施策がどちらに当たるかは、次の3つの変化で判定できます。
| 判定する変化 | 「変わった」といえる状態の例 |
|---|---|
| 業務の順番 | 内見予約の受付・日程調整・案内メール送信が、人の手を介さず1つの流れでつながった |
| 担当(誰がやるか) | 担当者が一から作っていた書類を仕組みが下書きし、担当者は確認だけになった |
| 記録の残り方 | 電話やメモで処理していた対応経過が、担当者の記憶ではなく共有の記録に自動で残るようになった |
たとえば内見予約の受付を電話からWebフォームに変えただけなら、3つとも変わっていないためIT化です。受付から日程調整、案内メール、顧客情報の記録までがつながり、担当者が確認するだけで済むようになれば、順番と担当が変わったDXといえます。どちらが優れているという話ではなく、IT化はDXの出発点です。
不動産テックとの違いは、手段を指す言葉か、状態を指す言葉かという点です。不動産テックは、不動産(Real Estate)と技術(Technology)を組み合わせた言葉で、業界向けのサービスや技術の総称を指します。VR内見、AI査定、電子契約サービスなどが該当します。3つの言葉の関係を整理すると、次のとおりです。
| 言葉 | 意味するもの/不動産業での例 |
|---|---|
| IT化・デジタル化 | 既存業務の手段の置き換え(例:紙の申込書をPDFで受け取る) |
| 不動産テック | 業界向けのサービス・技術の総称(例:VR内見、AI査定、電子契約) |
| 不動産DX | 業務の流れやビジネスの形の変革(例:申込から審査、契約までをオンラインで完結) |

ポイント
不動産テックは、不動産DXを進めるための道具にあたります。道具をそろえただけでは業務の流れは変わらないため、「何を入れるか」より先に「どの流れを変えるか」を決めることが大切です。
公開されている調査を見ると、不動産業界のDXは「関心は高いものの、取り組めている会社はまだ少数」という段階にあります。ここでは2025年の調査を中心に、現状を数字で確認します。※2026年10月時点で公開されている最新の調査をもとにしています。
アットホームが加盟する全国の不動産会社1,171社に行った調査では、不動産DXに「取り組んでいる」と答えた会社は13.4%でした。「まだ取り組んでいないが検討中」は41.8%で、半数以上が前向きな姿勢を示しています(調査期間:2025年1月28日〜2月4日)。
取り組めている会社はまだ少ないものの、DXツールを導入している会社の8割以上が効果を実感していると回答しています(参考:アットホーム「不動産DXに関する実態調査2025」)。
賃貸の管理会社・仲介会社が中心の調査もあります。不動産テック企業7社と全国賃貸住宅新聞の共同調査(1,286名、個人単位で回答)では、DXに「取り組んでいる」「取り組む予定」と答えた人は合わせて68.0%でした(調査期間:2025年7月4日〜8月19日)。調査の主体も対象も異なるため、2つの数字を直接比べることはできません(参考:不動産業界のDX推進状況調査2025)。
業務別に見ると、関心が集まっているのは物件の募集・管理と、重要事項説明から契約までの手続きです。アットホームの調査で、DXツールを導入している・導入を検討している業務を聞いた結果は次のとおりです。
| 業務 | 導入済み・検討中のツールがある会社の割合 |
|---|---|
| 物件募集・管理 | 約4割 |
| 重要事項説明 | 3割以上 |
| 入居申込 | 3割以上 |
| 契約 | 3割以上 |
この数字は「導入済み」と「検討中」を合わせた割合です。たとえば「電子契約を3割以上の会社が導入済み」という意味ではない点に注意してください。
同じ調査で「取り組む予定はない」と答えた会社に理由を聞いたところ、上位は次の3つでした。
3つの理由はいずれも、大きなシステム投資を前提にした場合の壁です。第3章以降では、IT人材や大きな予算がなくても判断できる早見表と、実際の事例、小さく始める手順を紹介します。
不動産業界は小規模な事業者が中心の業界です。国土交通省の資料によると、不動産業の事業所の95.5%は従業者10名未満でした(経済センサス2016年のデータ。参考:不動産業ビジョン2030 参考資料集)。宅地建物取引業者数は2026年3月末時点で133,727業者にのぼります(参考:国土交通省 令和7年度 宅地建物取引業法の施行状況調査結果)。
1人の担当者が集客から契約、アフターフォローまで抱えやすい構造のなかで、制度の整備も進みました。2022年5月18日の改正宅地建物取引業法の施行により、重要事項説明書や契約締結時の書面などを電磁的方法で提供できるようになり、宅地建物取引士の押印も不要になっています。ただし電磁的方法で提供するには、相手方から事前に承諾を得る必要があります(参考:国土交通省 報道発表)。
データの面では、国土交通省の不動産情報ライブラリが2024年4月1日に運用を始めました。価格情報や防災情報などを地図で確認でき、API(システム同士でデータをやり取りする仕組み)も無償で提供されています。API利用には申請が必要で、提供データは順次追加されています。
自社の取り組みがIT化どまりかDXかは、業務ごとに並べると判定しやすくなります。まず早見表で全体を確認し、続けて業務ごとのポイントと、生成AIで今日から試せることを紹介します。
| 業務 | IT化どまりの例 → DXになる例 |
|---|---|
| 反響対応 | ポータルの問い合わせをメールで受けて手で返信 → 問い合わせの整理・一次返信の下書き・顧客台帳への記録がつながり、担当者は確認して送るだけ |
| 内見・追客 | 内見の感想を担当者が手帳に残す → 感想を共通の項目で記録し、追客メールと次の物件提案にそのまま使う |
| 入居申込・審査 | 紙の申込書をPDFで受け取る → Web申込から審査・契約までをオンラインで進め、転記をなくす |
| 重説・契約 | 契約書をPDFにしてメールで送る → 相手方の承諾を得て電磁的方法で交付し、来店なしで締結できる流れにする |
| 賃貸管理・入居者対応 | 電話の内容を後からExcelに転記 → 連絡窓口を集約し、対応経過が自動で記録され、担当者が不在でも追える |
| オーナー報告 | 毎月Wordで一から報告書を作る → 対応履歴と入出金の記録から、報告書のたたき台ができる状態にする |
| 社内の情報共有 | 会議メモを個人のPCに保存 → 議事録の要約が共有フォルダに集まり、誰でも検索できる |
右側の「DXになる例」は、いずれも第1章の3つの変化(順番・担当・記録)のどれかが変わっています。自社の業務を表の左右に当てはめると、どこがIT化どまりかが見えてきます。
反響対応のDXの要点は、返信の速さを担当者の頑張りに頼らないことです。ポータルからの問い合わせは深夜や休日にも届くため、手作業に依存すると返信が遅れます。反響を増やす前に、いま届いている反響を取りこぼさない流れを整えるほうが、費用をかけずに成果へつながりやすいといえます。
生成AIで今日から試せるのは、問い合わせ文を貼り付けて一次返信の下書きを作らせることです。具体的な指示文は反響メールのAI活用で紹介しています。
申込・契約のDXの要点は、書類の受け渡しに伴う移動と待ち時間をなくすことです。効果は郵送費などの削減だけでなく、締結までの日数短縮や、書類を探す時間の削減にも及びます。
一方で、電磁的方法での提供には相手方の承諾取得などの要件があります。導入時は宅地建物取引士など有資格者を交えて運用を設計してください。送信前の点検の考え方は不動産の電子契約AIで解説しています。
賃貸管理・オーナー対応のDXの要点は、対応履歴を担当者の記憶から切り離すことです。設備不具合や騒音の相談を電話とメモで処理すると、記録が残りません。対応経過が共有の記録に残れば、担当者が不在でも状況を追え、オーナーさまへの報告資料の材料にもなります。
生成AIでは、入居者からの相談への返信文の下書きや、対応メモの要約から試せます。返信に使える指示文は入居者対応AIにまとめています。
社内の情報共有のDXの要点は、情報を探す時間をなくすことです。会議メモや申し送り、過去の提案資料が個人のPCに散らばると、同じ調べ物が何度も発生します。この領域はお客さまに直接影響しないため、DXの最初の練習台に向いています。
議事録の要約や資料のたたき台づくりは、失敗しても社外に出ず、毎週のように発生する業務です。任せてよい範囲は不動産の議事録AIで整理しています。
公的機関や業界団体、業界紙が公開している事例から、中小規模の会社の取り組みを4つ紹介します。いずれも出典に書かれている範囲の内容で、成果の数値は各社の報告にもとづくものです。
鳥取県で不動産流通・管理などを営むD社(従業員25名、報告書では社名は匿名)は、賃貸の来店から入居、退去までを1つの流れで管理する仕組みに切り替えました。以前は紙とExcelで担当者ごとに管理しており、鍵渡しの前日に未入金が分かることもあったと報告されています。
同社はクラウド型の管理システムを自社で整え、業務を標準化したうえで、部門の統合や人事評価の見直しまで組み合わせました。来店データを見て定休日を変更した例も紹介されています。報告書では営業利益が2.5倍になったとされますが、研究会での同社の発表をまとめた数値です(参考:全宅連・全宅保証「不動産取引に関するデジタル対応調査研究 報告書」2022年3月)。
マンションの開発・販売や賃貸を手がけるトーシンパートナーズホールディングス(東京都武蔵野市、従業員44名・持株会社単体)は、経済産業省の「DXセレクション2024」で準グランプリに選ばれました。AIで適正な賃料を算出するモデルを作り、早期の賃貸付けに活用しています。
あわせてノーコードツールとRPA(定型作業の自動化ツール)でグループ全体の事務を効率化し、約8,800時間の工数削減が報告されています。賃料を担当者の経験ではなくデータで決める流れに変えた点がDX、定型作業の自動化はIT化にあたると整理できます(参考:経済産業省 DXセレクション2024 選定企業レポート)。
大阪市のネクサスエージェント(従業員212名)は、「DXセレクション2026」の優良事例に選ばれました。担当者の経験に頼っていた価格査定や書類作成、取引の進め方の判断ルールを標準化し、一気通貫で管理できる仕組みを自社で整えています。
全社員向けの実践型AI研修を行い、現場で生まれた改善例を全社で共有する仕組みも作りました。全社で年間約3,000時間の業務時間削減が報告されています。今回の4社の中では規模が大きく、中小の会社は「判断ルールの標準化」という考え方を参考にすると良いでしょう(参考:経済産業省 DXセレクション2026 選定企業レポート)。
東京都豊島区の永幸不動産は、社長夫妻と営業1名の3名体制で賃貸管理と仲介を営んでいます。繁忙期は日中に電話対応に追われ、契約書類は閉店後に作るという状態でした。2019年7月に、物件確認の電話に自動で応答するシステムを導入しています。
その結果、電話は1時間に3〜4本から2〜3時間に1本程度に減り、残業時間も減ったと紹介されています。電話対応という1つの作業の置き換えなので、これ自体はIT化の段階です。ただし小さな会社でも負担の大きい作業から変えられる例として、DXへの出発点の参考になります(参考:全国賃貸住宅新聞「不動産DXの現在地」2024年4月11日)。
4つの事例に共通すること
成果が出た会社は、いずれもツールより先に「どの流れを変えるか」を決めています。D社は来店から退去まで、トーシンパートナーズは賃料の決め方、ネクサスエージェントは査定の判断ルールです。永幸不動産のように1つの作業の置き換えから始めても、空いた時間の使い道まで決めておくと次の一手につながります。
不動産DXが止まる原因の多くは、ツールの比較から入ってしまうことにあります。変えたい流れが決まる前に製品を並べても、判断の基準がないため決められません。まずは無料で試せる範囲で1つの業務から始めます。
最初の1業務は、「失敗しても社外に影響しない」「毎週のように発生する」の2つの基準で選びます。この条件なら安心して試せるうえ、短期間で回数を重ねられます。候補になりやすいのは次のような業務です。
第3章の早見表で「IT化どまり」に当てはまった業務のうち、この2つの基準を満たすものから選ぶと迷いません。
選んだ業務は、無料で使える生成AIで試せます。ここでは物件紹介文の下書きを例に、〔 〕内を自社の情報に書き換えるだけで使える穴埋めテンプレを紹介します。

あなたは不動産賃貸の営業担当です。以下の物件情報をもとに、ポータルサイト掲載用の紹介文を〔例:300〕文字程度で作成してください。
・物件情報:〔例:〇〇マンション/1LDK/専有面積40㎡/築8年/〇〇駅 徒歩6分/家賃11万円〕
・ターゲット:〔例:在宅勤務の多い30代の単身者〕
・伝えたい魅力:〔例:日当たりと収納の多さ〕
・トーン:〔例:親しみやすく、入居後の生活が想像できる文章〕
・注意点:「最高」「日本一」などの誇大な表現は使わない
もう一歩良くなるコツ(注意点の行は消さない)
最後の「注意点」の行を消さずに残すのがコツです。不動産広告は宅地建物取引業法・景品表示法・公正競争規約の制限を受けるため、誇大な表現を避ける指示を入れておくと、掲載前の修正が減ります。出力は必ず有資格者が最終確認してください。
試した結果を業務の流れに組み込むところまで進めると、IT化どまりを抜け出せます。うまくいった指示文を共有フォルダに置き、「この業務では、まずこの指示文を使う」と決めるだけでも、担当者による差が小さくなります。そのうえで、次の3つを記録すると取り組みが続きやすくなります。
対象業務1件あたりの所要時間を、始める前に3件ほど測っておきます。正確な平均値は不要で、「だいたい20分だったものが8分になった」と言えれば社内説明は成り立ちます。着手前の数字は後から取り直せないため、最初に控えておきましょう。
その業務が1か月に何件発生しているかを確認します。1件あたりの短縮時間が小さくても、件数が多ければ効果は積み上がります。件数を先に把握しておくと、次にどの業務へ広げるかの判断もしやすくなります。
作成時間が短くなっても、上長の確認で毎回書き直しが発生していれば、全体では楽になっていません。同じ箇所で修正が続く場合は、その条件を指示文に書き足すと解消しやすくなります。3つの数字を月1回の会議で共有すると、取り組みが会社の仕組みとして残ります。
DXは「始めること」だけでなく「今は始めないこと」の判断も大切です。次の場面では、無理に進めると現場の負担が増え、取り組み自体が嫌われる原因になります。
使う人を広げる手順や社内ルールの決め方は、不動産会社のAI導入3ステップで詳しく解説しています。
A. 意味はあります。人数が少ない会社ほど1人が担う業務の幅が広く、担当者が1日休んだときの影響も大きくなります。規模が小さい分、決めたことが早く行き渡る利点もあり、小さな変更でも効果を実感しやすいでしょう。
A. 進められます。社外とのやり取りを変えるには相手の合意が必要なため、まずは社内で完結する業務から着手するのが現実的です。社内の記録や資料づくりを整えておくと、取引先が電子化へ移った際にもすぐ対応できます。
A. ツールの導入費用には、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)などが使える場合があります。対象となるツールや申請の流れは不動産のAI導入補助金で解説しています。公募の内容は年度ごとに変わるため、申請前に公式サイトで最新の要件を確認してください。
A. なくなるとは限りません。事務作業や情報整理を仕組みに任せることで、内見の同行や条件のすり合わせといった対面の時間を確保しやすくなります。対面を減らす取り組みではなく、対面に使える時間を増やす取り組みと捉えると、社内でも受け入れられやすくなります。
大きな投資や専任の担当者がいなくても、始められることはあります。まずは第3章の早見表で自社の業務を1つ当てはめ、今週の会議メモの要約からAIに任せてみてください。
ご利用にあたっての注意
AIが作成した文章を業務で使う際は、宅地建物取引業法・景品表示法などに抵触する表現がないか、有資格者が最終確認してください。お客さまの個人情報は仮名にしてから入力しましょう。AIの機能・料金や補助金の内容は変わりやすいため、利用前に公式サイトで最新情報を確認してください。※記事内の調査データ・事例は2026年10月時点で公開されている情報です。
第5章「進め方」の実践編。ツール選定は最後・無料の生成AIで1業務から。
第4章の事例の続きに。AIに絞った活用事例と再現テンプレ。
「IT化どまりか、DXに進めているか」を12問で数値化。自社の現在地を測る。
どの業務から始めるか、一緒に決めます
つまずくのはツール選びより先、「どの業務から始めるか」です。現状をうかがって、着手する順番と進め方をご提案します。ご相談は無料です。
藤田 遼(株式会社WIG 代表/宅地建物取引士)
不動産業界での実務経験をもとに、現場でそのまま使える生成AIの活用法を研究・発信。「今日からコピペで使える」を合言葉に、不動産特化のAIノウハウを届けています。