空き家対応でAIが最も効くのは、所有者に説明する材料をつくる工程です。相続がらみの空き家相談は論点が多く、1件あたりの調査と説明に時間がかかります。この記事では、案件1件の初期対応をAIで進める4ステップ、そのまま使える指示文、制度面で必ず確認したい論点を解説します。新しいツールの契約なしで、明日の1件から試せる内容です。
空き家案件は、調査項目と説明項目が多い割に、成約までが長く単価も低い——。だから1件あたりの工数を下げないと受けきれません。ところが「空き家 AI」で調べても、出てくるのは自治体向けの検知システムばかり。この記事は、すでに手元にある1件を、契約ゼロのチャット型AIだけで短時間に前へ進めるための実務手順です。
・空き家対応でAIが「効く工程」と「効かない工程」の線引き
・案件1件の初期対応をAIで進める4ステップ(コピペ指示文つき)
・所有者への説明で誤らないために、一次情報で検算したい3つの制度
本記事は「AIで空き家を探す」話ではなく、「受けた空き家案件をさばく」話です。衛星画像による検知など自治体向けの取り組みは扱いません。仲介・管理の現場担当者が、明日の1件からそのまま試せる粒度で解説します。
1-1. 手間がかかるのは「探す」より「決めてもらう」 空き家案件で時間を奪うのは、調査そのものではなく所有者の意思決定です。売却・賃貸・解体・保有継続という選択肢があり、それぞれに税金と費用と期限が絡みます。相続人が複数いれば、全員の合意も必要になります。
総務省の調査では、2023年10月時点の空き家は900万2千戸、空き家率は13.8%と過去最高を記録しました。そのうち賃貸・売却用および二次的住宅を除く空き家は385万6千戸で、2018年と比べて36万9千戸増加しています。この区分の空き家こそ、相談を受けても方針が決まりにくい物件にあたります。現場が求めているのは物件を見つける技術ではなく、目の前の1件について選択肢と判断材料を整理して所有者に示す作業を、いかに短時間で終えるかです。
① 現地調査メモやヒアリング内容から、確認すべき論点を洗い出す
② 複数の選択肢を、同じ項目で比較できる表に組み替える
③ 業界用語の混じった説明を、所有者に伝わる言葉へ書き換える
いずれも情報を生み出すのではなく、手元の情報を並べ替える作業。事実誤認のリスクを抑えながら工数を削減できます。
① 査定価格や解体費用など、根拠のある数字を確定させること
② 税制の適用可否など、要件の当てはめを結論づけること
③ 所有者への最終的な提案内容と、その表現の妥当性
AIの数字や制度説明は「下書き」。税務の判断は税理士、登記の判断は司法書士の領域です。
AIは学習時点までの一般的な情報で回答するため、個別の物件事情や最新の制度改正が反映されているとは限りません。専門家へつなぐ前の「論点整理」までがAIの守備範囲だと考えると、使いどころを間違えにくくなります。

相続で空き家を取得した所有者から相談を受けた場面を想定し、初回面談から提案書の下書きまでを4つのステップに分けます。いずれも手元のチャット型AIだけで完結します。

聞き取った内容を投げ込み、論点を出させる工程です。空き家案件は確認項目が多く初回で漏れが出やすいため、メモの段階でAIに通しておくと、次回面談で聞くべきことがはっきりします。
あなたは相続がらみの空き家案件を多く扱う不動産仲介の担当者です。以下は所有者との初回面談メモです。このメモをもとに、次の3点を出力してください。
(1)方針を決めるうえで判明している事実
(2)まだ確認できていない不足情報
(3)次回面談で聞くべき質問を優先度順に10個
専門用語には短い補足を付けてください。個人が特定される情報は含めずに回答してください。
--- 面談メモ ---
(ここにメモを貼り付け)
「判明している事実」と「不足情報」を分けさせる(分けないと推測が事実に紛れ込み、後で検算しにくい)/質問を優先度順に並べさせる(面談時間は限られるため、上から5つ聞ければ十分という状態を作れる)。
空き家の出口は「売却/賃貸/解体して土地として売却/保有して管理」の4つに大別されます。所有者が迷う理由の多くは、この4つを同じ物差しで見比べられていない点にあります。
以下の物件について、「売却」「賃貸」「解体後に土地として売却」「保有して管理」の4つの選択肢を比較する表を作ってください。比較項目は、初期費用/想定される収入/税金面で確認すべき点/必要な期間/主なリスクの5つです。金額は断定せず、確認すべき項目名として記載してください。
物件:【所在エリア:例/地方都市の住宅地】
建物:【構造と築年数:例/木造2階建て、1978年築】
状態:【現況:例/10年以上空き家、雨漏りあり、家財が残置】
所有者の希望:【要望:例/なるべく手をかけずに手放したい】
相続人:【人数と状況:例/兄弟3人、うち2人が遠方在住】
金額を書かせず「確認すべき項目名」を出させる(AIの概算は根拠がなく、そのまま所有者に見せると後で食い違う)/相続人の人数と居住地まで入れる(合意形成の難易度が変わり、必要な期間の見立てに反映される)。表の枠組みだけAIに作らせ、数字は自社の実績と見積もりで埋めるのが安全です。
比較表ができたら、説明の言葉に変換します。空き家の所有者は不動産の取引経験が少ない場合が多く、業界用語のままでは判断できません。
以下の比較表をもとに、空き家を相続した所有者に向けた説明文を作成してください。条件は次のとおりです。
・専門用語を使う場合は必ずかっこ書きで補足する
・1文は短くする
・断定を避けて「確認が必要です」と明示する
・全体で800文字以内
・最後に「次にご検討いただきたいこと」を3つ挙げる
読み手は不動産の売買経験がない60代の方です。
--- 比較表 ---
(ここに表を貼り付け)
読み手の属性を具体的に書く(年代と取引経験を指定すると語彙の選び方が安定)/文字数の上限を決める(上限がないと説明が長くなり、かえって判断を先送りさせる資料になる)。出力は必ず自分の目で読み返してから渡してください。
空き家案件には期限のある制度が複数あり、気づいたときには使えなくなっている場合があります。相続の発生日を起点に、逆算した進行表を作っておきましょう。
相続した空き家の売却を検討している所有者向けに、進行表を作ってください。相続の開始日は【年月日】です。相続登記の申請義務/相続空き家の3,000万円特別控除の売却期限/相続税の申告期限の3つについて、それぞれの期限と、その期限から逆算した準備開始時期を月単位で示してください。制度の内容は概要にとどめ、最終確認は税理士・司法書士へ依頼する前提で記載してください。
相続の開始日を必ず入れる(日付がないと一般論が返り、進行表にならない)/「逆算した準備開始時期」まで出させる(期限だけ並べても行動につながらない)。そして、ここで出力された期限は、次の3章で必ず一次情報と突き合わせてください。
空き家に関する制度は改正が続いており、AIの回答が古い内容のまま出てくる場合があります。所有者への説明で誤りが生じると、信頼の回復に時間がかかります。特に間違いが起きやすい3つの制度を、確認先とあわせて整理します。

3-1. 相続空き家の3,000万円特別控除 相続した空き家を売却したときの譲渡所得の特別控除です。適用期限と控除額の扱いが2024年に変わっているため、古い情報が返ってきやすい制度です。
AIが2023年以前の情報をもとに、相続人が3人以上でも一律3,000万円と回答する場合があります。相続人の人数は初回ヒアリングで必ず押さえてください。※2026年8月時点の情報です。要件の詳細は国税庁タックスアンサー(No.3306)でご確認ください。
3-2. 管理不全空家等と固定資産税 2023年12月13日に空家等対策の推進に関する特別措置法の改正法が施行され、新たに「管理不全空家等」という区分が設けられました。従来は倒壊の恐れがある「特定空家等」だけが対象でしたが、その前段階の空き家も市区町村の指導・勧告の対象になります。勧告を受けると住宅用地特例が解除され、土地の固定資産税の負担が上がります。
誤解が生まれやすいのは税額が上がるタイミングです。空き家というだけで直ちに上がるわけではなく、指導を経て勧告に至った場合に適用されます。所有者への説明では「放置すると即座に6倍」といった表現を避け、段階のある制度として伝えると正確です。管理を続けている物件であれば、勧告の対象にはなりません。
3-3. 相続登記の申請義務 2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されました。相続で不動産の所有権を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に申請する義務を負い、正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料の対象となります。
見落とされやすいのは、施行日より前に発生した相続も対象となる点です。この場合の期限は2027年3月31日まで。何十年も名義が変わっていない物件では、この期限が交渉の材料になります。話し合いがまとまらない場合は「相続人申告登記」という簡易手続きもありますが、所有権の移転登記ではないため、分割協議の成立後に改めて登記が必要です。※2026年8月時点の情報。詳細は法務省・法務局の公表資料をご確認ください。
空き家案件は、所有者が遠方に住んでいる・相続人が複数いる・管理を受託している、といった状況の違いで必要な文書が変わります。現場で使用頻度の高い3つの場面を取り上げます。

4-1. 遠方の所有者へ現況を報告する 現地に来られない相手には、写真と文章で状況を伝える必要があります。
以下の現地調査メモをもとに、遠方にお住まいの所有者へ送る現況報告メールの文面を作成してください。構成は、訪問日時の報告/建物の状況/敷地の状況/対応が必要と思われる箇所/次のご相談事項の順とします。不安をあおる表現は避け、事実と所見を分けて記載してください。全体で600文字以内でお願いします。
--- 現地調査メモ ---
【調査日:例/2026年8月5日】
【建物の状況:例/外壁に大きな損傷なし、雨樋の一部が外れている】
【敷地の状況:例/庭木が越境しかけている、郵便物の滞留あり】
【近隣の様子:例/隣家から草木について問い合わせがあった】
「事実と所見を分ける」と指定する(分けずに書かせると推測が断定として混ざる)/不安をあおる表現を禁じる(遠方の所有者は現地を確認できないため、過度な表現は不信につながる)。写真を数枚添えると説得力が上がります。
4-2. 相続人が複数いる案件の論点をそろえる 相続人が複数いる案件では、全員が同じ情報を持っていない状態が長く続きます。誰か1人にだけ説明した結果、話が振り出しに戻る場面も起こります。
相続人が複数いる空き家について、相続人全員に同じ内容を共有するための論点整理メモを作成してください。構成は、物件の現況/現時点で判明している事実/まだ決まっていない事項/決めるために必要な情報/判断の期限がある事項の5項目とします。特定の選択肢を推奨せず、中立的な記載にしてください。A4で1枚に収まる分量でお願いします。
--- 案件情報 ---
(ここに情報を貼り付け)
中立的な記載を明示する(仲介者が特定の出口を推す資料に見えると、相続人間の対立に巻き込まれる可能性)/A4で1枚と分量を指定する(全員が読み切れる分量が合意形成の前提)。同じ紙を全員が持つ状態を作るだけで、話し合いの進み方が変わります。
4-3. 空き家管理(受託物件)の巡回報告をAIでまとめる 空き家管理を受託している場合は定期報告が発生します。1件ごとに書き起こすと負担が大きいため、チェック項目を渡して定型化しましょう。
空き家管理の巡回報告書を作成してください。以下のチェック結果をもとに、所有者向けの報告文にまとめてください。前回からの変化がある項目は冒頭にまとめ、変化がない項目は簡潔に記載してください。
【巡回日:例/2026年8月5日】
【通風・換気:例/実施済み】
【通水:例/実施済み、異常なし】
【外観:例/変化なし】
【郵便物:例/回収し保管】
【草木:例/前回より繁茂、次回の剪定を提案】
【前回の指摘事項:例/雨樋の外れ、未対応】
変化のある項目を冒頭に集めさせる(所有者が最初に知りたい情報から並び、報告書を読んでもらえる)/前回の指摘事項を毎回入れる(未対応の項目が繰り越され、対応漏れを防げる)。チェック項目をそろえておくと、担当者が変わっても報告の品質が安定します。
ここまでの手順は個人で試すだけでも効果があります。ただし空き家案件は担当者ごとに抱え込みやすく、個人の工夫で終わると会社の資産になりません。チームに広げる段階の進め方を整理します。
成果の出た指示文を1か所に集めます。共有ドキュメントを1枚作り、「論点の洗い出し」「比較表の作成」「所有者向けの説明文」といった用途ごとに貼り付けるだけで十分に機能します。うまくいかなかった指示文も理由を添えて残すと、重複した試行錯誤を避けられます。月1回程度、見直す担当を決めておくと古くなるのを防げます。
相続人の氏名・住所・家族関係をそのままAIに入力する運用は避けます。①氏名は「相続人A」「相続人B」に置き換える②住所は「遠方」「同一市内」など粒度を落とす③登記簿や戸籍の画像はそのままアップロードしない——の3点を社内で決めておきましょう。置き換えても論点整理や比較表の作成に支障はありません。利用するAIサービスの設定で、入力が学習に使われない状態かも確認を(※仕様は変更される場合があるため公式サイトで最新情報を確認)。
空き家案件は単価が低いため、工数が下がったかを見ないと継続の判断ができません。初回相談から提案書を出すまでの日数と、1件あたりの作業時間を、AI未使用の案件と並べて比較します。提案後に方針が決まるまでの期間も記録を。資料の分かりやすさが改善していれば、この期間が短くなる可能性があります。数字が変わらない場合は、効果の出た工程だけに絞る運用も選択肢です。
A. 現時点では自治体との連携事業として提供されるサービスが中心で、民間の仲介会社が単独で導入する事例は多くありません。エリア内の空き家把握は、自治体の空き家バンクや、水道の閉栓情報を活用した取り組みへの参加を検討するほうが現実的です。
A. 参考値として社内で使う範囲にとどめることをおすすめします。空き家は現況の傷みや家財の残置など、データに現れない要素が価格を大きく左右します。所有者へ提示する価格は、現地確認と近隣事例をもとに自社で確定させてください。
A. 資料の作成過程をあえて伝える必要はありません。AIは下書きを作る道具であり、内容の責任は担当者にあります。読みやすさや正確さで判断していただける状態に仕上げたうえで、通常の資料としてお渡しください。
最初から案件全体をAIに任せる必要はありません。まずは手元にある1件のヒアリングメモを使って、確認漏れの洗い出しから試してみましょう。
3章の「一次情報で検算」・5-2の個人情報ルールの具体版。宅建業法・景表法・個人情報の扱いを解説。
本記事の指示文を自社向けに改変するときの土台。プロンプトの基本構造を型として解説。
5章「チームで型をそろえる」の全体版。ツール選定は最後・1業務から始める導入ロードマップ。
低単価の空き家案件も、断らずに回せる体制へ 株式会社WIG/不動産AI総合研究所は、空き家・相続案件の初期対応をAIで効率化する指示文づくりから、社内ルールの整備・チーム定着まで支援しています。まずは無料のAI成熟度診断、または個別相談からお気軽にどうぞ。
藤田 遼(株式会社WIG 代表/宅地建物取引士)
不動産業界での実務経験をもとに、現場でそのまま使える生成AIの活用法を研究・発信。「今日からコピペで使える」を合言葉に、不動産特化のAIノウハウを届けています。